医師の働き方改革とクリニック労務担当者の対応

社労士の板垣です。

2024年4月から、医師の働き方改革が施行予定です。
これにより、すべての医師(勤務医)は一部例外を除き、年間の時間外労働を960時間以下(月間80時間以下)にする必要があります。

参考:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン及び医療機関の医師の労働時間短縮の取組に関するガイドライン(評価項目と評価基準)の公表について (mhlw.go.jp)

今回は病院在籍医師(医局派遣の医師)を非常勤雇用しているクリニックでの労務管理の実務について説明します。

医師の時間外労働の考え方

労働基準法では、週40時間を超えた部分を時間外労働として取り扱います。
常勤で勤務しているということは、その所属医療機関で週40時間勤務していることがほとんどです。
この場合、考え方としては下記の合計時間が時間外労働ということになります。

  • 所属医療機関の勤務時間の内、40時間を超えた部分
  • 非常勤勤務先での勤務時間すべて

これは一例ですが、仮に所属医療機関で毎週10時間の残業をした場合、年間(52週)で520時間となります。
そうすると、非常勤として他の医療機関で働くことができる時間は 960時間-520時間=440時間 です。
時間外労働が月間80時間を超えない前提ですが、1週間で約8.46時間しか余裕がないため、丸1日非常勤として勤務するとそれ以上の勤務は難しいでしょう。
そもそも週10時間以上残業をしている医師が多いため、本来は丸1日もバイトをすることができないというのが現状です。

医師の給与単価は非常勤先の方が高いことがほとんどであるため、以前から勤務医の重要な収入源となっており
非常勤での勤務ができなくなることは収入減に直結する可能性があります。

所属医療機関の対応

医師を常勤で雇用している病院では、2024年4月に向けて下記のような対応をとっています。

  • 自院での勤怠管理体制確立、非常勤勤務先の管理
    現在の時間外労働の実態を把握
  • タスクシェア
    医師がやらなくても良い業務はコメディカルへ移行し業務を分散
  • 宿日直業務の許可申請
    今まで時間外労働扱いであった宿日直を、労基署長の許可を受けて労働時間外扱いに

労働者の勤務時間や健康については事業主(今回は所属医療機関)が管理しなければならないため、
非常勤勤務先での時間も把握しなければなりません。

非常勤医師を雇用するクリニックの対応


①まずは常勤先の状況確認を!

雇用している医師に常勤先がある場合は、まずその常勤先での勤務時間や時間外労働の状況、
今回の働き方改革への対応について確認をしましょう。
常勤先で時間外労働が多い場合、今後クリニックでの勤務に制限がかかる可能性があります。

②クリニックでの日当直がある場合は労基署へ「宿日直許可申請」を!

非常勤医師に依頼している業務の内、いわゆる寝当直や日直業務等(実態として業務がほとんど発生しない状況)がある場合は管轄の労働基準監督署長の許可を受けて、日当直時間のみを労働時間から除外することができます。
それにより、クリニックでの勤務時間が常勤先での時間外労働とも通算もされないため、医師の引き上げ等に繋がるリスクを回避できます。
申請は書類提出のあと、労基署職員が医療機関へ訪問するため時間を要します。2024年4月施行に間に合うよう早めの対応が良いでしょう。

参考:宿日直許可のポイント (厚生労働省)

クリニックの日常診療に影響を出さないためにも、早いうちに非常勤医師へ常勤先の状況確認と必要に応じた対応をしましょう。

最後に

上記はあくまで法律に則った対応をするために必要な項目を挙げてみました。

あくまで医師もひとりの人間であり、私たちと変わりありません。医師法で定められた応召義務などの特殊性から法律上もイレギュラー扱いとなっていますが、残業はできる限り無い(短い)方が良いですし、その方が働いている医師の満足度も高いでしょう。

時間外労働が決められた時間に収まったからOKとするのではなく、引き続きどのようにすれば時間外労働を減らすことができるのか考え続けることが医療機関としても必要であると考えています。

最後までお読み頂きありがとうございました。